●アルバム全曲インタビュー前半:「まっさら」~「影を踏む」

──アタマの2曲、「まっさら」と「プリマ」は「アルバムが始まるよ!」という勢いを感じさせる元気でポップな曲ですね。サウンド的にもフォークロックで、あおいさんのひとつの面を代表する曲という印象です。

 オモテ面山崎って感じですね(笑)。「まっさら」はシングルとして先行配信されたんですけど、久々の新曲だったので、昔から応援してくれてる人たちが聴きやすいサウンドにしたいなと思って、メロディから作り始めました。

 今年28歳になったんですけど、若いとはいえそれなりにいろんな経験をして、まわりの友達も含めて第1次落ち着き期みたいなのに入ってきてる気がするんです(笑)。「わたしってこういう人間だから、こういうのが幸せだよね」とか、自分で決めつけてしまったりもしますけど、それって例えば好きな人に出会ったり、何か衝撃的な出来事があったりすると簡単に覆ってしまうような、危ういものだと思うんですよ。危ういのが悪いことではなくて、何度でもまっさらになれるから、あんまり自分で自分のことを決めて縛られなくていいんだよ、って歌いたい気持ちになったんです。

 

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──さっきコントラストとアンビバレンスと言いましたが、あおいさんのなかには、真善美を追い求める純朴さと、それを斜に見る皮肉っぽさが常にあると思うんです。その前者が出た曲かなと思いました。

 カウンセリングですね。

──やめてください(笑)。《君にキスをして/初めて知るの/私はどんな色してる》というくだりが、他者の存在を通して初めて自分がわかるという感覚を簡潔に歌っていて、感服しました。

 ありがとうございます。わたしもここが一番好きです。おっしゃる通り「自分は何者なのかをいくらひとりで考えたってわからないよ」と言いたかった曲なので。恋愛とかキスとかに限らず、ひとと関わることを通して「自分って意外とこうなんだな」って知れるから、あんまり恐れずにいたいなって。とくに1番はそういう歌詞です。《胸に爪を立てて 確かめる》もそうで、ガリッとやると血が出て痛いけど、そこで「あ、わたしの血って赤かったんだ」って知るみたいな。他の人間と付き合うとか深く関係を持つってそういうことかなと思ったんです。

──《何度でも まっさらになれる》には原点回帰の意味合いもあって、いいオープニングです。次の「Prima」の《100%の街》というのはどういう意味ですか?

 超パーフェクトってことですかね。恋愛してるときの無敵感みたいなものを書きたくて、何も足りないものがなくて満たされている感覚をその言葉にしました。

──それで《私たちがプリマ》《怖いものなんて ひとつもない/綺麗なままいられる》と。こういう気分になるときってあおいさんもありますか?

 ありますね。この曲を書いた後に思ったんですけど、昔は「どうして振り向いてくれないの」とか「こんなわたしじゃダメだよね」みたいな控えめなラブソングが多かったのに、最近はラブソングを書こうとすると、一緒にいることで自分がきれいなままでいられるかいられないか、みたいな基準で書いてしまうんですよ。ちょっとイヤな大人になってるなって(笑)。そういう目線で恋人を選んでるんじゃん、みたいな。

──自己省察癖が出ましたね(笑)。そういう部分はいったん脇に置いて、きれいなことだけをひとつの曲で表現できるようになってきた?

 そうですね。「こういう曲だ」って思ったらその部分だけ取り出して書くこともできるようになりました。大人です(笑)。

 この曲を制作してて一番楽しかったのは、実は転調なんです。2番のサビ終わりから最後にかけてたぶん4、5回してて。昔はギターで曲を作ってたので転調はあんまりしなかったんですけど、鍵盤で曲を作り始めてからわりとするようになりました。この曲は鍵盤を使わずに頭のなかで作って、後から楽器で追っていったんですけど。実は坂本真綾さんにドハマりしていた時期に書いた曲で、北川勝利さんの曲がすごく気に入ってひたすら聴いていたので、すごく影響を受けてます。人の音楽に影響を受けて曲を作るのは、中学生のときみたいで楽しかったです。

──なるほど。「離れないの」でちょっとテンポが変わって、サウンドもアコースティックになりますよね。

 この曲の位置が一番難しかったです。スローテンポで音数も急に少なくなるので、後半に入れてしっとり聴いてもらうのがありがちなパターンなのかなと思いつつ、1、2曲めでパーン!といって3曲めでシュンとなるのもありなんじゃないかとか、いろいろ考えて最終的にこの位置になりました。

──潔いほどクヨクヨに終始する失恋ソングですが、どんなときに思いついたんですか?

 失恋ソングを書きたいと思って、まぁそのきっかけもいろいろあったんですけど(笑)。今まで書いてきた失恋ソングは、ピアノで始まってサビでストリングスが入ってくるみたいなわかりやすいサウンドでドラマチックに演出しがちでしたけど、この曲は大人の失恋ソングとして、音数を絞って絞って、それでもしっかり染みるような曲にしたいと思って。ちょっと挑戦してみた曲でもあります。

──28歳にもなると失恋経験もそれなりにあるから……。

 聴きたい曲が変わってきてると思うんです(笑)。ドラマチックに泣きたいというよりは、ひとりでしんみり、ボーッとしながら、涙を流すでもなく聴ける失恋ソングがほしくなるかなと思って。

──若いときは失恋すると「もうダメだ、絶望、世界の終わり」みたいになるけど、20代後半ぐらいだと「ま、しょうがないか」みたいになりますよね。

 「また、これだ……」って。「はいはい、半年後にまたできます」みたいな。そんな自分もイヤだったりして(笑)。

──4曲めの「Mr. Birthday」はハッピーなバースデイソングですね。《Mr. Birthday》と《Mrs. Birthday》が対になっていますが、既婚カップルの歌ですか?

 それはメロディーの音数の問題ですね(笑)。コロナ禍でライブがあまりできなかったので、今年明けてから6月ぐらいまで、Pocochaっていうライブ配信アプリで練習がてら毎日、歌ったりしてたんです。そこでファンの方が「今日誕生日です」って言ってくれて、バースデイソングのカバーを歌ったりしてたんですけど、自分のバースデイソングがあればいいなと思って、配信中に作り始めたんです。「生まれてくれてありがとう! 今日だけはすべてを忘れて幸せに過ごそうね」みたいな、とびきりハッピーなやつを作りたくて。

──「ファンクラブの人たちと一緒に曲を作りたい」とおっしゃっていましたが、それがこの曲ですか?

これに限らず、アルバム制作の全般を見届けてもらいました。ファンクラブで「制作会議」というオンラインイベントを、進捗の報告みたいな感じで、今までに3回やってるんですよ。《こんな日くらい 耳もつけて》の「耳をつける」っていう表現は、まさにファンの人がコメントで言ってくれたことなんですね。そのものズバリの言葉を使わずに、どこにいるかを伝えるという。なので一緒に作ったっていう意識が強いです。

──この曲で気に入っているのはどこですか? 

2番の《これからバースデー/何度も祝おう/「そんな歳じゃない」なんて言わないで/いくつになっても 生まれて出会えた/奇跡を忘れたくないから》というくだりです。わたし自身、こういうこと言いがちな年齢になってきたと思うんですけど、そういうことじゃないじゃないですか、誕生日って。やっぱり「生まれてくれてよかった」って言う日だと思うし、そのことは忘れたくないんですよね。

──確かに28歳ぐらいになると「そんな歳じゃない」とか「もうおばさんだから」と言いがちですけど、さらに歳をとると「若いのに年寄りぶっちゃって」と思います(笑)。

 そうですよねー。最近まわりに若い子が多くなってきて、無駄なおばさんムーブしちゃいがちなんですけど、やめたいです。

──僕は誕生日に限らず、記念日とか儀式というのはだいたい本人よりもまわりの人たちのためのものなんじゃないのかな、ってよく思うんです。

 本当にそうですね。《いつも思ってること/特別のせいにして いま/伝わってほしいな》って書いてますけど、特別のせいにしてまわりがただ楽しいことやるだけの日だし、それでいいんだよって思います。

──5曲め「影を踏む」でトーンが大きく変わります。《屋上から飛び降りた/あの子》という一節もありますが、何かきっかけになった出来事があるんでしょうか?

 表現する仕事の人って心を病んじゃうことが多いじゃないですか。わたしのまわりにも、まさに命を絶ってしまった人や、絶つ寸前までいってしまった人がいて、自分のなかで全然消化できないまま何年も過ごしてきたんです。今年、震災からちょうど10年というので、テレビ番組を見てたら、破壊された被災地の映像をバックに菅野よう子さんの「花は咲く」が流れてきて、すごい泣いちゃって。でもそれは絶望というよりは、こんなになってしまった場所でも復興していくってことを知った希望の涙でもあると思うんですね。

 そのときに思ったのが、命を絶ってしまった友達や絶とうとした友達に見えていたのは絶望の世界だったのかもしれないけど、もっと生きていれば、その先に希望も見えたんじゃないのかなって。なんて言えばいいかわからないんですけど、わたしは絶望のなかにも希望を見出せる心を持って生まれてきてしまったから、ちゃんとその思いを焼きつけて、間に合うか間に合わないかわからないけど、絶望に陥りがちな人の心に届けられたらいいな、と思いながら書きました。

──あおいさんの祈りがこめられているんですね。

 いちばん難しかったかもしれないです、歌詞を書くのが。

──《移りゆく日々の虚しさと やさしさ》という一節はとりわけ印象に残ります。

 いろんなものが変わっていってしまうじゃないですか。恋人ができても一生一緒にはいられないし、家族も自分を置いて死んでしまうし、友達も自分の元から離れていってしまう。それを絶望と捉えるか希望と捉えるかって、考え方次第だと思うんですね。移りゆくものだから寂しくてやってられないとも言えるし、だからこそ救われるとも言える。絶望だけとは思わないでくれ、っていう気持ちですかね。

──絶望のなかに希望を見出せるタイプとおっしゃいましたが、危ないときもありますか?

 あんまりないんですよね、それが。昔はあったのかもしれないですけど、いつでも誰でも、自分自身も転げ落ちてしまう瞬間はあるとわかっているからこそ、危ないときは自分でなんとなく察知するし、どうすれば踏みとどまれるかというのも、だんだんわかってきたふしはあるので。今後のことはわかりませんけど、今のところ「わたしは絶対に大丈夫」とは思わないのがコツかなと思ってます。

──僕もそれが大事だと思います。バックはピアノと弦カルになるんですかね。

 弦カルをダブルで録っているので、音的には8人、プラスピアノですね。幡宮航太さんに「歌と歌詞を伝えるためのアレンジなので、ストイックな感じで」ってお願いしました。歌もピアノと一緒に歌ったテイクをほぼそのまま使ってるんです。最初から最後までストイックな制作でした。

──伝わってほしいですね。

 どこかの誰かにピンポイントで届けばいいなと思ってる曲です。

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