アルバム全曲インタビュー後半:「I'm yours」~「一緒にいるから好き、たぶん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──6曲めの「I'm yours」はB・J・トーマスの「雨にぬれても(Raindrops Keep Fallin' on My Head)」を思い出すような、おしゃれでかわいい曲調ですね。

 洋楽っぽい曲にしたいなと思って、『シング・ストリート』とか『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督の映像世界に合うような音楽を自分なりに作ってみようと思って書いていきました。

──そんなサウンドに乗るのが問い詰められソングというのが面白い。

 今年の初めに、まだ出てないんですけど映像作品の撮影をしに沖縄に行ったんですよ。ビーチでギターを弾くシーンがあって、そこでサビを作りました。最初は「リラックスしていこうぜ」ぐらいのイージーリスニングな歌詞を書くつもりだったんですけど、さっき話したファンクラブの制作会議でみんなに聴いてもらったときに「あおいちゃんっぽくない」「確かにイージーリスニングっぽいのが想像できる」って言われたので、「そうか、じゃあ逆を突いてみよう」と思って、尖った女の子の歌詞をつけました。

──《アキネイター》って僕は知らなかったんですが、ゲームの名前なんですね。

 質問に答えたら自分が思い浮かべてる人を当ててくるんです。わたしが高校生ぐらいのときに流行って、去年ぐらいにもう一回ちょっとだけ流行ったんですけど、わたしは誰かとお付き合いすると、だいたい問い詰められる側で(笑)。自分はあんまり相手が何をやってたとか気にしないんですけど、「何してたの?」「どこにいたの?」「出会って何年ぐらいの人?」「どういう仕事の人?」「彼女はいるの?」とか聞かれがちで、「アキネイターみたいだな」って思ったんです(笑)。

──ちょっと話がそれますが、あおいさんは恋人の携帯を見たいほうですか?

 見たくないですね。いいことないですよ、ひとつも。見る人信じられない。自分のも見ないでほしいし。だって、何もやましいことがなかったとしても、自分以外の異性に優しく気を遣った返信してるってだけで、ちょっとイヤじゃないですか。「なに絵文字使ってんの?」ってなりません?

──なります、なります(笑)。

 そう思っちゃうのがイヤなんです。でも自分を振り返ってみると、自分も好きじゃない異性にそこそこ気を遣って「またごはん行こうね」ぐらい言うし、そういうもんだからお互い目をつぶっていようね、それが平和の秘訣だよね、って思ってるタイプです。

──僕はもうちょっと極端で、浮気はされてもいいんですよ。

 えー! わたしはそれ無理です。

──バレないようにしてくれさえすれば。バレたら絶対に許しませんけど。

 あー、まぁそうですね。知らなかったら存在しないのと一緒ですもんね。観測する前は存在しない、星みたいなもんで(笑)。でも自分だけ知らなくて、彼氏のまわりの友達は全員知ってるとかだと、「よってたかっておまえらわたしのことバカにしてたんだろ!」みたいな気持ちになります。

──あおいさんと彼とその友達と何人かで飲んでいるときに、ちょっとほのめかすようなことを言い合って彼ら同士でアイコンタクトなんかされたら……。

 あーもうムカつきますね。それは別れます。気づいてないふりして、いい女のふりして去ります。「後悔しなさい」って(笑)。
──ですよね。ここからいよいよアルバムの最深部に到達していきます。「サボタージュ」には、それこそ2000年代のアメリカの女性シンガーソングライターっぽさを感じました。

 うれしいです。べつにそこはイメージしてなくて、「マイナーでかっこいい曲」っていうのを最近あんまり書いてなかったなって思って。感情をぶちまけるまではいかないですけど、内面のイヤな部分を歌えるような曲を書こうと思って作りました。曲調よりも歌いたい思いが先にあった曲ですね。

──歌いたい思いというのは?

 最近は徐々になくなってきてる気もするんですけど、何歳で就職してなきゃダメ、出世してなきゃダメ、何歳だったら年収はこれぐらいとか、何歳までには結婚とか、年齢ごとに「これを越えられなかったら一人前じゃない」みたいなハードルが課せられてる気がして、わたしみたいなふわふわした仕事をしてると苦しくなってしまうんですよね。高校の同級生とか、いわゆる真っ当な人生を送ってる人が多いので。

──道内トップクラスの進学校ですもんね。

 同窓会とか結婚式で再会すると「こんなんでごめんなさい」みたいな気持ちになっちゃうんですよ。その窮屈になってる気持ちのやり場として書いた曲です。

──僕は同窓会には基本、行かないです(笑)。

 そうですよね。わたしが仕事で関わる人はたぶん全員「こっち側」だと思います(笑)。なかなか「向こう側」の世界の人とは仕事では出会うことがなくて。わたしは再会するときは「なつかしいね、みんな!」みたいな部分だけオンにして、ステイタスを比べるみたいな部分はオフにして行きます。

──比べることには意味がないと思っているからこういう仕事をしているのに、「向こう側」の人に会うとハッとしちゃうのは不思議ですね。無意識のうちに「真っ当な生き方」とは何かという感覚がインストールされているのかな。

 音楽を始めるよりも前の幼少期に培った「幸せとは何か」とか「人間としての正しさとは何か」みたいな価値観がけっこう強烈なんだなって思います。

──あおいさんは勉強もできたでしょうし。

 勉強は本当にできなくて補習の常連だったんですけど、衝動に勝てなかったですね。右脳だけで選択しちゃいました(笑)。

──それでこそ人生。《まだ腐っちゃない 全身は》ですよ(笑)。

 そうですね。生きてます、わたしは。

──8曲め「花咲くを待つ」はアルバムのハイライトかなと思いました。

 これが一番、反応が読めなかった曲です。実は外部の方の感想を聞くのは今日が初めてなんですよ。

──この曲の《君》って故郷のことですよね。

 そうですね。土地だけじゃなくて、親とか友達とか当時の恋人とか、地元に根づいてる空気みたいなもの全体です。

──だから重量感があるし、ひときわ大事な歌じゃないかなと感じたんです。

 アルバムのテーマがルーツだから、やっぱり地元に対する気持ちを歌いたくて、今、思うのはこういうことかな、みたいな。初期のころに歌っていた「地元に帰れば大丈夫」とか「みんな変わらないでね。私も変わらないで頑張るよ」みたいな純粋な郷愁だけじゃない、地元に対するちょっとねじれた思いを書きました。

──メロディの要素が多いですよね。

 めちゃくちゃ多いですね。アルバム全体に、なるべく予定調和のA、B、サビ、A、B、サビ、オチサビ、ラスサビ、みたいな展開はしないぞっていうテーマが自分のなかであったんですけど、この曲が一番展開が多いかもしれないです。

──《何にだってなれる街に出て/私はまだ 自由に飛べずに》と歌っていますが、飛べていないですか?

 まだ不自由な感じがします。仕事がうまくいかないから不自由とかじゃなくて、「サボタージュ」にも通じますけど、誰も知り合いがいない、何をしてもいい街に出てるのに、地元に帰るたびに「やっぱり家庭を持ってここで暮らすのが幸せなのかな」ってところに引き戻されちゃったりとか、全然自由じゃないなって思っちゃうんですよね。

──こういう曲を作るのはしんどくはないですか?

 しんどくはないですけど、体力は使いますね。息切れする感じがあります。

──出来るとすっきりする?

 すっきりとはまた違いますけど、なんだろ、「音楽たのしー!」みたいな気持ちではなかなか作れないタイプの曲です。だから満足感はありますね。ファンの人に届いて感想をいただけたときに、また違う気持ちになるんじゃないかなと思います。

──「一緒にいるから好き、たぶん」はアンコールというかボーナストラック的な位置づけでしょうし、9曲めの「ともだち」が本編ラストという印象です。

 まさにそういう立ち位置の曲で、アルバム『√S』としてはこれが最後の曲という気持ちですね。昔から応援してくれている人たちに「今わたしはこういうフェイズにいます」と伝えようと思って書いた曲です。

──アレンジのクレジットもあおいさんひとりですし。

 ギターとピアノしか入ってないので、これをアレンジと呼んでいいのかって話もありますけど(笑)。

──すごく正直な歌でドキドキしますが、《僕ら》というのは誰と僕ですか?

 同時期にデビューしたライバルたちですかね。2012年って、同じようにギターを持って歌う女の子たちが大量にデビューした年なんですよ。

──いわゆる「ギタ女」ですね。

 そう呼ばれて一緒にライブをしたりとか。わたしは全然イヤではなかったんですけど、ファンの人たちは「ライバルでバチバチなのかな」とか「めちゃくちゃ仲いいのかな」とか、関係性を気にしてたと思うんですよ。わたし個人としては、そのどっちという感じでもなくて、もうちょっと特別な思いがあるんです。《ある夜 新しい夢ができたこと/打ち明けてくれた/「誰より最初に伝えたかった」と/君はずるいな》って書いてますけど、それこそ「音楽じゃないこと、やってみようと思ってるんだよね」みたいに打ち明けられる機会もあったりして。そのときに感じたことを整理する意味もあって書きました。その子にもいつか聴いてほしいです。たぶんすぐ聴いちゃうと思うんですけど(笑)。

──彼女とは同期みたいな感覚ですか?

 戦友ですかね。

──戦友ね。そのお互いにしかわからない感情は宝物だと思うので、大事にしていただきたいです。最後の「一緒にいるから好き、たぶん」は、唯一の打ち込みアレンジですし、さっきも言った通りボーナストラック的な曲ですが。

 恋愛にまつわる体験談を募って映像や小説にしてる「純猥談」とコラボした曲で、原作があるんです。それを読みながら沿わせて作りました。制作のし方もこの曲だけ全然違って、TikTokでアピールするために、「どの15秒を切り取ってもストーリーがわかる曲にしてほしい」っていうリクエストでした。サビだけでもわかるし、Aメロだけ聴いてもなんとなく伝わる、みたいな感じで、今までと全然違うアプローチで面白かったですね。ルーツでは全然ないので、最後にボーナストラック的な感じで入れました。

──職業作家経験が役立ちそう。

 そうですね。完全にそっちの脳みそで書きました。

 

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