●用意周到で堅実vs.勢いとパッションの10年間

──という感じで、10曲すべてに触れてきたわけですけども。

 ありがとうございます。すみません。

──何がすまないんですか(笑)。

 ていねいに聞いてくださってありがとうございます。

──アルバムについて「これだけは言っておかなきゃ」ということはありますか?

 買ってください、ってことですかね(笑)。

──28歳で10年めってすごいですよね。昨日『アオイロ』を聴いたんですが、すごく変わったなとあらためて思いました。

 変わりましたねー、本当に。

──自分で初期のアルバムを聴くことはありますか?

 あります。『√S』のミックスチェックのときに、何回も繰り返し聴いてたらゲシュタルト崩壊し始めたので(笑)、今までどんなミックスバランスでやってたのかを確認しようと思って昔のやつを聴きました。ちょっと恥ずかしかったです。

──今もライブで歌っている曲は?

 ありますよ、けっこう。昔から応援してくれてる方は、その人自身の思い出と紐づいた昔の曲を聴きたいという方が多いので、歌うようにしてます。

──そういうときは恥ずかしくないですか?

 曲によりますね。ずっと歌ってきてる曲だったらそんなにですけど、例えば『ツナガル』に入ってる「秒速50メートル」なんかだと、《おしゃれはせいぜい… ah 筆箱の中》とか、「筆箱って!」みたいな気持ちになります(笑)。

──僕は「花火のあと」がいまだに好きです。

 これは今も歌います。意外といい曲書いてるんですね(笑)。

──たくさん書いていると思いますよ。自分でよく書けたなって思う曲は?

 それこそ「花火のあと」とかはいろんな気持ちが蓄積されて、いつも新しい気持ちで歌える曲ですし、ビギナーズラック的な、「よくこのコード進行で書いたな」とか「よくこのメロディ出てきたな」とかいうのもたまにあります。でも基本的には最近書いた曲のほうが「あ、いい曲できた」みたいな気持ちにはなりますね。

──そりゃそうですよね。

 ファンから見たらわからないですけどね。思い出補正もあるでしょうし、初期衝動的な山崎あおいが好きだった、みたいな人もいると思うんですけど、曲のクォリティに関しては、後退してる気はしないです。

5.jpg

──さっき抽象性が上がったと言いましたが、そのことによって普遍性を獲得したというか、パーソナルな歌から誰でも歌える歌に近づいたような気もします。そこには作家活動がなんらかの好影響を与えているんじゃないかと。

 あると思います。曲を作るという行為自体が楽しいものになりましたね。昔はやり場のない感情の行き場みたいな感じだったかもしれないですけど、今もそういう曲もあるにはあるにせよ、特に最近は曲を作ること自体が楽しくて、アドレナリンを出しながらやれる作業になってる気がします。

──この10年で変わったなと思うのはどういうところですか?

 やっぱり作家活動を始めたのは大きな分岐点でしたね。喉を壊したことが影響していて、ライブ活動もできず、作家活動もやりたいけどまだできなかった空白の時期。あそこが折り返し点だったと思います。「なんで歌えないんだろう、歌う仕事なのに」ってすっごく悩みましたけど、作曲家の先輩に「大谷翔平がバッターとして覚醒した理由は何かわかるか? 肩を壊したからだよ」って言われたんですよ。それから大谷選手が大好きになって、ずっと並走してる気持ちでやってます(笑)。シンガーソングライターとしての活動も作家活動なしには続けられてなかったと思うので、ようやくいいところに落ち着いたかな、今後どうなるかわからないけど、というところです。

──自分が作った言葉やメロディを他の人の歌で聴くのは?

 楽しくて仕方がないです。

──かつてと比べて今のほうが快適にやれていますか?

 全然そうですね。ザ・メジャーみたいな感じで活動させてもらってたころももちろん楽しいこともあったし、新曲を出したら自動的にプロモーションが全部組まれてるみたいな環境も快適でしたけど、わたしが知らなかっただけで、やってることは今と同じだったと思うんです。例えばミックスチェックで何か言いたいことがあるとき、今は自分で伝えて〆切を調整したりしますけど、以前はまわりの人が黙ってやってくれてただけなんだろうなって。今はどんな人がどういう働きをしてくれてるかも、その苦労もちゃんと目に見えてて、変な言い方ですけど、誰にどのぐらい感謝したらいいかがわかるので、そのほうが安心な気がします。だからみんなに申し訳ない気持ちが強くて、「すいません」ってすぐ言っちゃうんですよ(笑)。

──メジャー時代から申し訳なさそうにしていた気もしますけど(笑)。では逆に10年めでも変わっていないのは?

 人間性はまったく変わってないかもしれないですね。まだ全然、上京したての子どもの気持ちです。

6.jpg

──でもデビューしたときはまだ学生だったけど、今は曲がりなりにも社会人じゃないですか。音楽一本で食えていますか?

 食えてます。常に背水の陣感はありますけど(笑)。いいことなのかはわかんないんですけど、休まる感じはないです。たとえばアルバムを作り終えても「しばらく休もうか」とはならなくて、「やっと自分のアルバム終わった! 次は作家のほうサボっちゃってたからやらなくちゃ」みたいに、常に動いてる感じはあります。

──それでも上京したての気持ち、うぶな田舎娘というところは変わらないんですね。

 うぶかどうかはわかりませんけど、ちょっとダサいところは変われないなと思います。この10年であんまり洗練された感じがしないんですよ(笑)。あと、わたしももう大人だからと思って去年、保険に入ったりとか、急に投資信託の勉強をし始めたりとか、将来が不安だから、何か資格を取らなきゃいけないのかな、とかも考えるんですけど、昔から大事なことは「勢いとパッションだよね、結局は!」みたいに決めちゃうところがあって。そこは変わってないなと思います。

──だからこそ今も音楽をやっていられるのかも。根本的には楽天的なほうですか?

 いや~、めちゃくちゃ用意周到だと思います。ただ、堅実にずっと生きてきたつもりではあるんですけど、堅実な判断を重ねた結果、今もシンガーソングライターやってるみたいなところがあるんですよ(笑)。「あれ?」みたいな方向にいつも進んでますね。本来、それなりの人を見つけて2年間交際して両親に挨拶しに行って、これだけ貯金ができたから子供作ろうね、ってタイプではあると思うんですよ。ではあるんですけど、最近わかってきたのは、もしかしたら来年は子ども産んでるかもしれない、みたいな(笑)。考えて考えて考えた結果、よくわからないタイミングでよくわからない決断をしちゃうフシは昔からあると思います。

──すてきなことだと思いますよ。面白い人生です。

 迷惑はかけますけどね、まわりに。

──いいんですよ。その代わり自分が迷惑をかけられたときに許してあげれば。

 許すのは得意です(笑)。自分に甘く、他人に甘く。

──当分は音楽をやり続けていくと思うんですが、やってみたいことはありますか?

 今の目標は、この活動体制の規模を大きくしていくことです。作家としてもっとたくさんの曲に関わって、ヒットを出して生活を安定させて、そっちでいただいたお金で自分のアルバムを好きなように作って、例えば海外でPVを撮るとか、売れてる売れてないにかかわらずどんどん挑戦をしていきたいです。趣味みたいにはしたくないので、まわりにいてくれるみなさんの幸せにもちゃんとつながるようにしたいですけど。

──楽しみです。長時間ありがとうございました。何か言い残したことがあれば。

 やっぱりアルバム買ってください(笑)。

​インタビュー・文 高岡洋詞